Literary Machine Nº9

文学と音楽、ロンドンの陸地で溺れる税理士

日本語のこと: 「に」or「へ」

最近、ある部下のメールをいくつも書き直していてふと気がついたことがある。助詞の「へ」を「に」に直すことがあまりにも多い。もちろん「へ」が適切でないと感じたからこそ修正したわけではあるが、同時に、自分のなかでこれらの違いがはっきりしていないことにも気がついた。

さて、ざっと調べた限り、「へ」は方向を示し、「に」は到達点を示すという。 例えば、

  • 東京行く。
  • 東京行く。

この二つの文を並べたとき、一文目は「東京辺りに」・「東京の方角へと」という広がりのニュアンスがある。フォーカスしているのはある方向へ向かって進行することであって、結句どこに到達するかは判然としていないともいえる。一方の二文目は文字通り「東京都に」入るために行くことがはっきりとしている。

この二者は入れ替え可能だし、日常ではどちらを使ったところで意味内容からして大した問題にもならないが、冒頭のメールでは「へ」ばかりが頻出したために不適切と感じた。彼女はまったく「に」を使わない。「へ」で突っ張るスタイルだ。しかし、「へ」は漠然としている。例えば、

  • 当該書類は〇〇日までに弊所より目黒税務署提出いたします。
  • 当該書類は〇〇日までに弊所より目黒税務署提出いたします。

文単体だけでみると大した差はないかもしれないが、「へ」は提出先が曖昧だ。目黒税務署の方に出すが、風向きによって日本橋税務署に届くかもしれない。というのは言い過ぎとしても、提出先は100%目黒税務署だという確固たる意識が足りないようにみえてしまう。提出先というのは法令などで明確に指定されているのだから、ピンポイントで目的地を指し示す「に」でなければいけないだろう。

これは一例に過ぎないが、「へ」or「に」いずれが相応しいかという問題はここに帰結すると捉えていいと思う。結果を担保すべきプロフェッショナルの文章には「へ」はおよそ不適切であって、あえてぼかしたい特殊な理由でもない限り「に」を使うべき、というのが今のところの僕の考えである。