Literary Machine Nº9

文学と音楽、ロンドンの陸地で溺れる税理士

去り際に屁をこくように in the UK - 1話

日本に帰任する日が刻々と迫っている。いざ英国から放逐される段になって、一年半の間「ギグを観るほかは引きこもってYoutubeだけを観ていた」という極めて辛い事実に直面し、これはまずいと焦りはじめた。そういうわけで、帰朝までのわずかな残り時間でさんざっぱら屁をこき尽くすが如く、駆け込みで観光してから帰ろうと思う。日記のような雑然としたものを。下手な写真を大量に載せるので、ご注意ください。

雪のおもしろう降りたりし朝

12月10日-11日とLuxembrougに旅行していたら、二日目の朝に雪が降った。暢気なことに雪だるまとか雪合戦の話題になったが、ロンドンに戻る夕方のフライトが二時間も遅延して泣きを見た。それでもキャンセルにならなかっただけ幸いといえよう。雪の止んだ翌朝、外へ出ると月曜日が白い景色になっていた。


しばし滞在している西ロンドンのNorth Actonの駅前。


零度とかいうのに半ズボンの輩がいるのが、西洋人のユニークさというかアングロ・サクソンの屈強さを殊によく示している。


なぜ雪に覆われていない木があるのか。それはさておき水墨画印象派が混じったようでもある。もっと芸術的に撮りたいものだ。


South Kensington BooksはLondonのIndependent系本屋のなかでもおしゃれでかつ品揃えのセンスがよくて気に入っていた。日本と異なり定価で売らねばならない拘束がないためか廉価になっている本も多くて、カフカガルシア・マルケスなどの古典のペーパーバックなどが£3,4で買えてしまう。読書家諸氏の積ん読を増やさんとする悪辣な書店である。

漱石はこれまでロンドンに住んだ日本人のなかで最も偉大と思うが、英国人に広く読まれているわけではない。現代のアーティストでいうと宇多田ヒカルが最も著名かしらん。漱石を紹介する記述に、Cambridgeに通うほどの学費は賄えなかったことや、神経衰弱に陥ってロンドン生活を楽しめなかったことまで言及されているのが面白い。他にもロンドンの東西南北各地に住んだ知識人や書店を紹介する記載が簡潔な物語になっていて大変興味深く読める。とはいえ、英国人にすら忘却の彼方に遣られた大衆作家などは馴染みがなさすぎるので飛ばす。

V&A

Victoria and Albert Museum(V&A)はSouth Kensingtonにある美術館。ここに来るのは一年ぶりくらいの二回目だが、まずGround Floorの大量の像さんたちに圧倒される。そして、陶磁器や銀食器、調度品の部類が並んでいると自分にこういった品物を鑑賞するだけの教養が不足していることを痛感させられて、心なしか足が速まる。

今回はファッションのコーナーをじっくりみて楽しんだ。17世紀頃の貴族のドレスから始まって戦後に至るまでの西洋の服飾の歴史。絵画と同様1900年頃に前衛的な作風が出てくるのが印象的だった。


Religiousな人間ではないが、それでも仏教のコーナーに至ると安心する。これはイケメン。


入り口の展示は定期的に変わるのだと思う。これはたしか、韓国人アーティスト。

Battersea Power Station

Battersea Power Stationは1970-80年代まで稼働していたテムズ川以南の発電所だが、商業施設としての再開発が終わり、2022年10月14日にオープンしていた。南ロンドンのClaphamのフラットに住んでいたときに行かず、フラットを追い出されて西ロンドンに落ち延びてから思い出したように向かうのが計画性のない自分らしいと思う。

公式のリリースによれば、これは90億ポンドもかけた壮大なプロジェクトの一部に過ぎないとか。

以下(拙訳)を読むと、これは街づくりですな。

開発完了の暁には25,000人もの人々が居住し、働くこととなり、ロンドン最大のオフィス・商業・娯楽・文化の中心地が誕生することになります。 42エーカー(訳注: 約17万平方メートル、東京ドーム4個分弱)の敷地内には、250以上のショップ、カフェ、レストラン、劇場、ホテル、医療センター、そして19エーカーの公共スペースにはテムズ川に面する450メートルのリバー・フロントと6エーカーの公園が含まれます。こうして24時間営業の新しいコミュニティが形成される予定です。 バタシー・パワーステーションは新しいオフィス街となり、300万平方フィート(訳注: 約28万平方メートル)を超える商業施設と、個人向けの手頃な価格の住宅が建設される予定です。

フェーズ8まであって、この施設がオープンした現在はまだフェーズ2だという。英国人のことだから、発電所以外のプロジェクトが完成するのは22世紀だろうか。少なくともその頃私はロンドンはおろか地上を去っているに違いない。


Battersea Power StationといえばPink FloydのAnimals(1977)のアートワークに使われたのが有名ですよね。

寄りすぎている。

Jo Maloneの協賛で施設の前の広場にスケートリンクが開設されていた。チケットはなんと£35もするが、どうやら当日中に施設内のJo Maloneの店舗で£35分の買い物ができるらしい("redeemable"と言っているので……)。私は独りだったから、滑る気になるはずもなく、リンクの反対側の施設の方へ渡るために遠回りをさせられただけだった。


まあ愉しそうなご様子だこと。

施設内部の写真を全く撮らなかったが、スチームパンクぽいというか機械ぽい無骨な雰囲気があって好い。上階にはまだオープンしていない店舗もちらほらあった。来年にはテムズ南側の商業施設として店舗がもっと充実するのだと思う。

口惜しいことにこの日気づかなかった。この発電所にはなんとあの「マルキュー」がある。リフトに乗ってロンドン市内を360度展望できる109というやつで、チケットは大人で£15.9とのこと。在英日本人の間で「マルキュー」が話題になる日が来ると断言しよう。南ロンドンに住んでいる人しか訪れないかもしれないし、シャードやスカイガーデンやロンドンアイの展望に負けるだろうから、そんな日は来ないんだけどね。

〆のラーメン


発電所にいたせいか急に身体がラーメンを欲したので、Piccadillyの金田屋へ行った。金田屋は初めて食べたときにきくらげが半凍結状態なのかしらんがやけに食感が悪かったために気分を害して以後避けていたけれど、一風堂が近くになかったので仕方なく行ったら……普通に美味いじゃねえか。あのときはきくらげさんのコンディションが悪かっただけでしたか。

ロンドンでそんなにラーメンを食べたわけじゃないけども、個人的な順位は以下の通り。昇龍は悪くはない。単に日本では戦えないレベル、日本人が通いたくなる店ではないというだけだ。これら以外は後悔するものばかりだった。

  1. 天丸
  2. 一風堂
  3. 金田家
    --- 壁 ---
  4. 昇龍